手に入れる女
次の日。
12月にしては歩きやすい、暖かい日で、佐藤と優香の二人は、オフィス街をそぞろ歩きしていた。
折しもクリスマスのイルミネーションがきらめき、街は華やいでいる。
季節がらだろうか、やけにカップルの姿が目につく。それほど寒くもないのに、男の腕にしがみついてる女ばかりであった。
佐藤は、奇妙な気分であった。
昨日、優香にやり込められて、美智子へのプレゼントを一緒に買いに行くハメになったのが悔しくもあり、それでも、優香の堂々としたアプローチにあっぱれというような気持ちも若干あり……そこまで食いついてくるなら今回は向こうに花を持たせるか……というような心持ちにもなる。何と言うか、好ライバルのような気持ちで、要するに彼女とのやり取りをどこか楽しんでいる自分がいた。
そして不思議なことにあまり罪悪感を感じていない。
「どうなんでしょうかね、妻のプレゼントを他の女性と買いに行くっていうのは。私は今、罪悪感に苛まれていますよ」
こんな風にチクチクと言ってみても、優香は全く気にしていないようであった。
それは、多分、罪悪感を感じていない佐藤の本心を正確に掴んでいるからだ。
「男同士で買いに行くよりよっぽど気の利いたものが買えていいんじゃないでしょうか」
「もらう方の気持ちを考えると複雑なんじゃないでしょうか」
「あら、女は素敵なものを貰えば、全然気にしませんよ。指輪でも買いますか?」
優香はウィンドウに飾られている、宝石店の指輪をあごでしゃくりながら言った。
優香の勝ち誇ったような態度に、佐藤はさらに挑発したい気持ちに駆られる。
一体、どんなことを言えば彼女は凹むのだろうか。この、強くて打たれづよく、常に全力で向かってくる彼女が打ち拉がれるところを見てみたい、と、つい、意地の悪い感情を抱いてしまうのはなぜなんだろう。
自分の感情と信念が唯一の正義で行動規範であり、空気を読むとか、他人の立場や思惑を忖度する、というところから最も遠いところに位置する優香が、窮地に立たされて信念を曲げるところをみたい、という屈折した感情が沸き上がってくる。
後ろめたいことをせずに、堂々と誠実に生きてきた自負のある佐藤ではあったが、自分の責任で好き勝手に生きる優香への羨望があるのかもしれなかった。