手に入れる女
ーー奥さんを愛してるんでしょう。これぐらい安いものじゃない。
優香は無邪気な顔を装って佐藤を試している。
佐藤は、今日も優香にやり込められそうだった。
「それはさすがに予算オーバーです」
ーー君と一緒に美智子への指輪を選べるわけないだろ。そこは分かれよ。
ここで冷徹になれない佐藤の優しさに、優香はつけいるのであった。
「大好きな奥様のためなら、多少オーバーしてもいいんじゃありません?」
「大幅にオーバーですからダメです」
佐藤の声は、さっきよりも少し尖っていた。
優香は、さらに佐藤をあおりたてるようなことを言う。生き生きとした顔で浮き浮きとした声をだす優香に、佐藤は形勢が不利になっていくのを感じずにはいられなかった。
「あら、女は自分のためにどれほどの犠牲を強いてくれるかで男を評価するんですよ。
たまには指輪ぐらい奮発したらいいんじゃないですか。奥様、きっと喜びますよ?」
言葉に詰まったら負けだ。
佐藤は急いで反撃を試みた。
「そうですね……今年、銀婚式ですからその時にふさわしいものをじっくり選びますよ」
一瞬の間があいた。
ちょっと辛辣すぎただろうか。
佐藤が軽い後悔に襲われたそのとき優香はにっこり笑ってこう答えたのだ。
意気揚々と。
「そうですね。じゃ、その時にまた、指輪を選ぶお手伝いしますよ。
今日は他のものにした方が良さそうですね。任せて下さいね、とっておきの素敵な贈り物を選びますから」