手に入れる女
拍子抜けするほどあっさりと買い物を終わらせて、二人は駅に向かって歩き出す。
二人とも無言だった。
「佐藤さんて、本当に奥様を愛していらっしゃるんですね」
唐突に優香が呟いた。
がっくりと肩を落として悲しげなため息をつく。
ーーなんだよ、なんだよ、またからんできた。しかも今まで以上の直球どストレート。
突然の発言に、佐藤はぎょっとする。
ーー次は何を言い出すんだ?
「急にどうしてそんなことを?」
優香は伏し目がちな顔で、諦めたような投げやりな言い方をした。
「だって、こういう時には、……お礼に食事でも、って言うものじゃありませんか?
なのに、佐藤さんって誘う素振りも見せないんですから、余程、奥様しか目に入ってないんですね」
ーーさすがに……こんだけ言いよられてるのに誘えるかよ。こっちだって君の気持ちは十分に分かってるんだからさ。
もちろん、口には出せない佐藤である。
「小泉さん相手に、うっかり食事なんて誘えませんよ。恐ろしい」
「そんな、私、まるで鬼のようですね。そんなに嫌わなくても……」
優香は潤んだ目で佐藤をじっと見つめる。はっとするほどセクシーな表情だった。
ーー結局キスだって嫌がらなかったじゃない、って言うか、あなたも感じたはずよ、私と同じ事を。
佐藤も懇願するような目で優香を見つめ返す。
ーーだから誘えないんだよ。続きがしたくなるじゃないか。
言葉よりも瞳の方が、本音がよく伝わっているようだった。
「小泉さんは、時々予想外の行動に出るから、こちらも慎重になっているだけですよ」
ーーじゃあ、はっきりさせるしかないわね。
優香は、すうっと小さく息をすった。
「一度くらい食事にいきませんか。コーヒーだけでなく」
二人ともわかっている。
一度じゃ済まないし、食事だけじゃ済まないであろうことも。
それでも誘ってくる優香を佐藤は持て余した。