手に入れる女
「僕なんかよりも、小泉さんと食事をご一緒したい、という素敵な方はたくさんいらっしゃるでしょう。
そういう人たちを差し置いて申し訳ないですよ」
ーー頼むからオレを誘惑しないでくれよ。
懇願するような目で訴える。
しかし、優香はそんな佐藤の訴えなど聞き入れることなくはっきりと言い返した。
「私は他の人ではなく、佐藤さんと食事をしたいんです」
優香は佐藤を睨みつける。
傲慢なほどに自分の感情を押し通す。覚悟も激しさも佐藤は足元にも及ばない。そんな優香に佐藤が勝てるわけがなかった。
佐藤は大きなため息をついた。
「小泉さんには参るなー。じゃ、今度ご一緒しましょうか」
今日はこのぐらいで勘弁してくれないか。
のらりくらりの常套句「今度」の言葉から、佐藤の気持ちを察してもらいたいのだが。
「今度っていつですか? 今から食べませんか?」
「……」
優香はその手を緩めるつもりはないようだった。どこまでも佐藤を追いつめるしつこさに根負けしてしまう。
「今日はちょっと……」
「奥さん?」
「ウチで食べる、と言って来たので」
口からの出任せだった。
「わかりました……。もういいです」
優香は知らず知らずのうちに涙目になって、下唇をかんでいた。
情けないのと悔しいのが半々、という顔をしている。涙をこぼさないよう、ぐっと力を込めている。
ーー相変わらず感情表現が豊かだなぁ。可愛い顔して怒るんだな。頼むからそんな顔するなよ。
急に、やり過ぎた、という罪悪感が佐藤を襲った。
「申し訳ない。え……と、別の機会にってことで許してもらえますか?」
優香は佐藤の優しさにすかさず付け入る。
「次の約束をしてくれたら」
上目遣いで佐藤を見上げる。全く小悪魔のような女だ。
「じゃあ、金曜日はどうですか?」
「きっとですよ」
佐藤が返事をしたとたん、優香はさわやかに笑った。それはついさっきまでとは全く違う嬉しそうな笑顔だった。
ちょっとあどけないぐらい無邪気な笑顔で佐藤の心がぎゅっと締め付けられる。
ーー自分だけに見せる表情なのだろうか?
それとも……この娘は……他の男にもこんな顔を見せるんだろうか。
ふとそんなことを思い、佐藤の心は思いがけずざわついた。