手に入れる女

美智子は何気なく聞いたが、話の継ぎ穂に聞いただけで、誰と行ったかに関心がないことは明らかだった。
ここで優香の名を出しても彼女は何とも思わなかったろう。むしろ隠すべきではないと思う。

にもかかわらず、佐藤は本当のことを言うべきか一瞬迷った。

「え?」  
「だから、誰と行ったの、って聞いたの」

「うん、スズキさん」
「ふーん」

案の定、話はそれで終わった。


会いたくてやりたいのを後押ししてもらいたいんだろ


山本の言葉がふいに浮かんで来た。

美智子はのん気に話を続けた。

「あ、そうだ、父たちが入居する日が決まったのよ。再来週の土曜日だって。のりさん、空けといてくれる?」

やっぱり佐藤の食事の話は気にもとめていない。

「わかった」
「けいちゃんにも手伝ってもらわなきゃね」

「そりゃ、手伝わせるさ」
「じゃあさ、来週会社の帰りにけいちゃんのところに行って、鍵と書類届けて来てくれる?」

「わかった」

お茶を一杯飲みながら気軽に返事をした。
< 125 / 216 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop