手に入れる女
美智子は何気なく聞いたが、話の継ぎ穂に聞いただけで、誰と行ったかに関心がないことは明らかだった。
ここで優香の名を出しても彼女は何とも思わなかったろう。むしろ隠すべきではないと思う。
にもかかわらず、佐藤は本当のことを言うべきか一瞬迷った。
「え?」
「だから、誰と行ったの、って聞いたの」
「うん、スズキさん」
「ふーん」
案の定、話はそれで終わった。
会いたくてやりたいのを後押ししてもらいたいんだろ
山本の言葉がふいに浮かんで来た。
美智子はのん気に話を続けた。
「あ、そうだ、父たちが入居する日が決まったのよ。再来週の土曜日だって。のりさん、空けといてくれる?」
やっぱり佐藤の食事の話は気にもとめていない。
「わかった」
「けいちゃんにも手伝ってもらわなきゃね」
「そりゃ、手伝わせるさ」
「じゃあさ、来週会社の帰りにけいちゃんのところに行って、鍵と書類届けて来てくれる?」
「わかった」
お茶を一杯飲みながら気軽に返事をした。