手に入れる女
優香は、佐藤の手を掴んだまま、自宅へと歩いて行く。駅にほど近いタワーマンションの一角。
優香につれられて佐藤が中に入ると、そこは飾り気のないホテルのような空間だった。
無機質なリビングは、ゆったりとした間取りの部屋をさらに広く見せている。
片隅に生けてある見事な百合が、部屋中にかすかなよい香りを漂わせていた。生花だけが放つことのできる、そっけないほどにさりげなく、それでいて鼻をくすぐるような甘美な匂い。
優香にピッタリだ。
濃いグレーの大きなカウチに佐藤を座らせるとようやく少し優香の緊張が解けてきたようだった。
「コーヒー入れますね。どれにしますか?」
優香はコーヒーのネスプレッソのパックを佐藤の前に持ってくる。
佐藤が静かに腰を下ろして、無言で豆を選んでいると、初めて優香は感情を表にだした。
呆れたような、ガッカリしたような、それでいて感嘆したような声だった。
「何か……相変わらず全然動じませんね。私の気持ちは……知ってるんですよね?」
佐藤は無言で優香をじっと見つめるままだ。
「これでも結構一生懸命アタックしてたんだけど、全然振り向いてくれないんだもの。
本当に奥様一筋なのね……」
優香は滔々と話を続けた。
「それなのに、私はどんどんあなたに惹かれていく。もう、どうしようもないくらいに」
そこで初めて佐藤は口を開いた。
「うん、それは知ってる。好かれてるのは痛いほど感じてる。僕だってそこまで鈍感じゃないからね」
あっけないほどあっさりと答える佐藤に優香は大きなため息をついた。