手に入れる女
その頃、佐藤はたまらなくなって、いつもの店に山下を飲みに誘った。
心の内を少し吐き出したい。
こんな時に、安心して自分をさらけ出せるのは山下しかいなかった。
山下に、優香との経緯をかいつまんで話すと、さすがに驚いた顔を隠さなかった。
「結局オレの忠告をまるっと無視して寝ちゃったわけだ。それで? どうなのよ、初めての浮気は」
「……面倒くさい。今朝、会いたいメールもらって、あー……やっぱりやっちゃったんだなー……って思った」
「何じゃ、そら。お楽しみしといてそれはないだろ。何、もう後悔してんの?」
「いや……そういうわけじゃないんだ。ただ、自分に起きたことのような気がしねーんだよなぁ。
会いたいって言われても、会ってどうすんだ、って感じで、どう返すか考えてたら返信しそこねた。多分、向こうは気をもんでるよな」
「そらそうだろ。何、もうほっといて無視するつもりなの?」
「……」
それが出来れば佐藤だって苦労はしない。
「何で手、出したんだよ、ほっとくつもりなら」
今度は、怒気を含んだような声で佐藤を厳しく追及した。
自分もキャバクラで散々遊んでるくせに、人のこととなるとやたら道徳観を振りかざす。
佐藤は、山下を見上げると、一杯くっと飲んでから、ふて腐れたような声になった。
「オレだって、鉄の心臓で出来てるわけじゃないんだからさ、あんな『絶対オレと寝るから』って宣言するような顔されちゃ、……転ぶよ。
とにかくアイツはへこたれないんだよなー。一生懸命で可愛いよ」
普段の佐藤らしくない物言いに、山下はまじまじと佐藤の顔を見つめた。
「何か、その発言、すっげー愛を感じちゃったんだけど。オマエ、結構本気になってない?」
だてに長年佐藤の親友をやってるわけではない。山下は一撃で核心を突く。
「当たり前だろう。冗談で女と寝るか。オレはオマエとは違うんだよ」
「体が二つなくて残念だなー」
酔狂なことを言い出す山下に、佐藤は思わずぷっと吹き出した。