手に入れる女
#9
結局そのまま優香に返信することなくずるずると週末を迎えた。
あれからぱったり優香からのメッセージが止まった。それきり何も連絡して来ないのは、情の強い彼女らしい事だった。
そのままこれっきりになるのであれば、それが優香の意志だとも思えたし、
しかし、あれだけ激しい女であればそのうち顔を赤くして怒鳴り込んでくるのではないか、という気もした。
そんな優香の顔をみるのもあるいは面白いのではないか、とどこか期待している自分がいる。
佐藤は、欲しいものを全力で取りにくる優香の激しさやエネルギーにどうしようもなく吸い寄せられているのだった。
美智子や、おそらく佐藤自身も、あんなふうになりふり構わず突っ走ることはしないだろう、と思う。
いや、できないのだ。
何にせよ、どこか一歩引いて物事を眺めてしまう佐藤には、優香の情熱が羨ましい。
佐藤はそんなことをとりとめもなく思いながら車を運転していた。隣りに座る美智子の話が全然頭に入ってこない。
「ね、私たちも、今の家から引っ越すのかしらねぇ、もう少し年を取ったら。のりさんは、老人ホームに入りたい?」
急に話を振られて我に返った。
美智子の両親は、今日鎌倉へ引っ越しをする。
年の瀬の慌ただしい時期だが、お正月は新居で迎えたいという丈母の意向で、強行することになった。
そんなわけで、佐藤と美智子が、二人を都内の家まで迎えに行っている。
「うーん、考えた事ないけどね、そうなるんじゃない?」
美智子の両親の引っ越しは否が応でも、自分たちの老後について考えさせられるのだろう。
最近の美智子は口を開けばその話ばかりだったが、もともと能天気なところがある美智子の未来設計図は、バラ色のものが多く、聞いていても暗くならないところが良かった。