手に入れる女
どっちみちこのままうやむやにするわけにはいかないことは佐藤にも分かっていた。
話すなら早い方がいい。
月曜日の夕方、コーヒーショップでの待ち合わせを提案したのは佐藤の方だった。
佐藤が行った時には、すでに優香が座って待っていた。
初めて会った場所ーー優香が「自分席」と言って笑っていた場所だ。
優香は、ぼんやりと外を眺めながらコーヒーを啜っていた。
佐藤に気づいて、優香の顔がぱっと笑顔に変わった。サボテンの花がぱあっと開く時のような劇的な笑顔だ。
優香は相変わらず喜怒哀楽のはっきりした激しい女だった。
笑顔で待っている優香に話を切り出すのは、気が重たいことであった。
「申し訳ないけど、君とはもう会いたくない」
佐藤は、何の前触れもなく、いきなり、単刀直入に優香に伝えた。優香に回りくどい言い方は通じない。
優香は、少し驚いたような顔をみせると、身動き一つせず、ただ黙って佐藤の顔を見ている。
しばらく経って、優香はようやく口を開いた。
「どうして?」
「これ以上、妻を裏切りたくないからだ」
佐藤は優香の目をまっすぐ見つめた。
優香の目から涙がぽろぽろこぼれ落ちる。それでも、優香は下を向く事もなく、堂々と佐藤を見返していた。
「私は? 私のことはどうでもいいと思ってるの?」
「妻と離婚しない以上、ずるずる続けて君の人生を台無しにしたくない」
「じゃあ、奥さんと別れて……。そうすれば、私と付き合えるでしょう?」
涙をこぼしながら佐藤の視線を真正面から受け止めて、切々と訴えてくる優香の顔は美しかった。
うっかりすると抱きしめてしまいそうになる。