手に入れる女
他人事のように外から眺めてみれば、全ての出来事が虚構のように思われ、全くもって滑稽な情景だと思った。
不倫をして戸惑う男。泣いて追いすがる女。夫の裏切りに傷つく妻。自己嫌悪に陥る夫。
始めからこうなると分かっていたことではないか。
ばかばかしい。
どんなに心が乱されたとしても……不倫などすべきではないのだ。戸惑い、自己嫌悪に陥ることなど最初から分かってたではないか。
戸惑うぐらいなら……自己嫌悪に陥るぐらいなら、自分の気持ちに蓋をして何事も起きなかったように振る舞えばいいだけだ。
そうすれば、誰も傷つかないし、不幸にもしない。
佐藤は、どこか最後の最後で一歩引いてしまう。優香のような情熱を持つことはできないようだった。
こういう激しさをどこか面倒だと思ってしまう自分は、恋に狂ったり、嫉妬に狂うことなどないのだろうな……と佐藤は思った。
決着をつけなくてはならない。
「それはダメ」
佐藤はきっぱりとした声をだした。
「どうして? だってあたしは遊ばれてもいいって言ってるじゃない」
「最初にも言っただろう。これ以上妻を裏切ることはできないって」
「どうしても私と別れたいんだ。私、自殺しちゃうかもよ、手首切って」
佐藤はふっと笑って答える。
「それは全然脅しになってないよ。君は絶対自殺したりしないからさ」
優香は上目遣いで佐藤をにらんだ。
「……何でわかるのよ」
「僕は自殺するような人は好きにはならない」