手に入れる女
佐藤は、優香はしぶといな、と心の中で苦笑していた。
優香だって、自分が自殺するようなタマでない事は、よくわかっているはずだ。
なりふり構わず挑んでくる優香が佐藤にはどうしようもなく魅力的だった。
彼女はなぜ、こんなに一生懸命になれるんだろうか。この、自分に向けられた情熱はどこから生まれてきているのであろう。
佐藤には優香のこのひたむきさが眩しかった。
「本当にうまいこと言うね。結局佐藤さんの言う通りになっちゃうんだ」
優香はとうとう観念したようだった。
佐藤はなるべく簡潔に話を終わらせたかった。
くどくど言葉を並べると……終着点を見失ってしまいそうだったから。
「あまり長いこといると、お互い辛くなるだけだから、そろそろ行きませんか」
佐藤は話を切り上げて、席を立とうとした。
しかし、それでもまだ納得できていなかったのだろう、優香はぼろぼろと涙をこぼし出した。涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃだった。
「……いや」
駄々っ子のように、目をまっ赤にして泣きはらす。
店内はしんと静まり返り、店中の注目を集めたが、優香は全く気にしていないようだった。
佐藤は、ただただ優香が落ち着くのを静かに待った。しばらくたって、優香の激しい慟哭がむせび泣きに変わった。
「……わかった。出る」
ようやくそれだけ言うと、二人は並んで店を出た。最後に佐藤は優香に言った。
「小泉さん、これから先、私を見かけても無視してくれないかな。話しかけないで欲しいんだ」
優香は佐藤には何も答えず、フラフラと佐藤から離れて街中に消えて行った。