手に入れる女

優香は夜の街をふらふらとさまよっていた。

涙でネオンがにじんで、街はいっそうキラキラして見える。
鈴の音やクリスマスキャロル、人々の陽気なざわめきが遠くから聞こえてきた。

優香は圭太のマンションに向った。
自分の顔は涙でぐしゃぐしゃだったし、転んだせいで足にすり傷が出来て血がにじんでいたが、そんなことはどうでも良かった。

玄関のチャイムがピンポンと鳴った時、圭太はのんびりとテレビを見てくつろいでいた。
とつぜんのチャイムに少し警戒しながらも玄関のドアを開けると、涙で化粧がくずれて顔がぐしゃぐしゃになった優香がおばけのような形相で立っていた。

「優香さん……どうしたの?」

優香は圭太の質問には答えず、圭太に抱きついた。

「圭太、私と結婚して」

それだけ言うと、あぜんとする圭太の顔中にキスを浴びせた。
それは涙と鼻水にまみれた随分ぐちゃぐちゃなひどいキスだった。

「結婚しよう?」

圭太が返事をしないので、優香は怒ったように繰り返す。圭太は優香を優しく抱きしめると耳元でささやいた。

「わかった」


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