手に入れる女

「昨日、突然プロポーズされた気がするんだけど、あれ、本気?」

圭太は、コーヒーを優香に手渡しながらさりげなく確認する。優香はむきになって答えた。

「本気も本気。今すぐ役所に届けに行きたいぐらいよ」
「夕べはかなり感情が高ぶっていたみたいだけど」

やんわり言ったつもりだったが、優香の反応は過敏だった。

「何? 私と結婚したくないの?」
「そういうわけじゃないよ。でも、昨日、泣きながら言ってたよ。いいの?オレ、本気にするよ」

どこまでも優しい圭太に、優香は苛立ちを隠せない。

「するの? しないの? どっち? 私の気が変わらないうちに返事して」

圭太は優香の剣幕にぎょっとしながらも、

「わかったよ。するよ、する。結婚しましょう」

と意外なまでにすんなりと優香のプロポーズを受け入れた。

「じゃ、決まり。ねえ、例の家族の食事会だっけ? 今度連れてって。圭太のご両親に会いたいから」
「そうだね。どっちにしても挨拶に行かなきゃ行けないしね。あー、何だか緊張してきたなァ」

のん気な笑顔をみせる圭太を見て、優香の良心は疼いた。

自分の本当の意図を知ったら、圭太は軽蔑するだろう。

が、そんな考えをすぐに追い払って、優香もにっこりと圭太に微笑み返した。
それから、ふっと思いついたように付け加えた。

「あ、そうだ。ご両親に会うまではいっさいあたしのことしゃべらないでね。名前とかも教えないでね」
「え、何で?」

「自己紹介は自分でしたいから。絶対言わないでね」

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