手に入れる女
それからも日々は淡々と過ぎていた。
佐藤は、安穏と過ぎ行く前のような毎日に戻っていた。穏やかで落ち着いた以前のような日々に満足していた。
それでも時たまふいにあの夜のことが蘇ることがあった。
遠い昔の出来事のように曖昧な記憶になっているのに、あの夜のことを思い出すと、心がざわざわとしていくる。
心臓がどうしようもなくドキンドキンと高鳴り出して、息苦しくなるのだった。
「またぁ? 最近、しょっちゅう飲みたがるなぁ、たまには会社のヤツと行ったら?」
佐藤が山下を飲みに誘った時、山下は盛大にぼやいた。
「会社のヤツは、気ィ使うからイヤなんだよー。雄介、ちょっと付き合ってよ」
「じゃ、たまにはカミさんと飲みに行けば? 最近全然行ってないだろ〜?」
ドキリとする。
「いや、美智子は最近忙しくてさ〜、何か新しい習い事始めたみたいで」
「嘘つけ」
間髪いれずに返事が飛んでくる。
なんでわかるんだよ? 読心術でもマスターしたのかよ。
内心で悪態をつついていたら、山下はもったいぶって言った。
電話の向こうでニヤニヤしているのが手に取るようにわかる。
「お前さぁ、言い訳する時って、ちょっと早口で声が高くなるんだよな〜」
さすが、三十年来の友人だ、一瞬で佐藤の出任せを見抜く。
「じゃあさ、たまにはオレに付き合えよ?」
急に、山下が言い出した。
「一緒にユカちゃんに会いに行こうぜ〜」
「ユカちゃん?」
「そ、今一番のお気に入り」
「……ああ、キャバクラか」
「たまには気分転換にいいんじゃないか」
「……わかった」