手に入れる女

ユカちゃんというのは、顔立ちの地味な、痩せぎすの目立たない女の子だった。
山下が「やあ」と陽気な声をあげると、ユカちゃんは伏し目がちにはにかんで、ささやくような声で「いらっしゃい」と言った。

意外だ。

佐藤は、もっとグラマラスで華やかな場慣れした女の子を想像していた。
ユカちゃんが席を離れたスキにそう言うと、山下はすました顔で答える。

「そういうのが好きなのはね、初心者ですよ。オレのように通いつくすとねぇ、ああいうシロートっぽいのがよくなるの」
「……そういうもんかねぇ」

山下が、戻って来たユカちゃんの肩をそっと抱くと、ユカちゃんは顔を真っ赤にして俯いた。

確かに、シロートっぽいのかもしれない。俯くユカちゃんを必死で口説く山下がなんだか健気に見えてくるから不思議だ。

佐藤は、ふと優香のことを思い出した。

優香だったら……顔を真っ赤にして俯くなんてことはないだろうな。
彼女が顔を真っ赤にするときは、激しく怒った時に決まっている。そんな時の優香は舌鋒するどく相手を打ちのめす。

彼女は、およそ加減するとか、相手のメンツを気遣うということは皆無だった。だから、あんな調子で周りとぶつかっていては、大抵の男が彼女を嫌厭することは想像に難くなかった。

優香が相手をやり込めるところを想像して何となくにやけてしまう。
剛健な強さが彼女の魅力であった。怒ったときの横顔が美しい女だった。

「……ちょっと怒ってみて?」

佐藤は不意にユカちゃんに話しかけた。

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