手に入れる女
#10
あの日から、圭太は一層優しくなった。三日と空けずに会いに来てくれたし、何より、あの日のことを何も聞かずにそっとしておいてくれる圭太の心遣いに、優香は秘かに感動していた。
あの優しさは、多分母親譲りなのだろうと思う。幸福な人だけがまとう事のできる、鷹揚な優しさが美智子にも圭太にも備わっている。
『オレは不幸なのはイヤ。誰かを不幸にするのもイヤ。』といった佐藤の言葉を思い出す。
美智子と圭太は、佐藤が、家族を愛し、家庭を慈しんでいる何よりの証拠であった。
あの後、遠くから佐藤と美智子が仲良さそうにつれだって歩いているのを遠目で見た事があった。それから優香の頭を占めているのは、佐藤の荒々しい息づかいと、熱く火照った指先のことばかりであった。
あの、穏やかな仮面の下には、押さえきれない衝動と突き上げてくる情熱が隠されているはずだ。
自分は一体何を求めているのだろう……
優香は仕事に没頭しながらも、ふと気付くとそんなことばかり考えてため息をついていた。