手に入れる女

圭太と聡子がリビングから出て二人きりになると、美智子も少し落ち着いてきた。

佐藤はキッチンに向うとコーヒーを淹れ始めた。佐藤は穏やかに優しく美智子に話しかける。

「圭太から話は聞いた?」

美智子は小さく頷いた。佐藤は話を続けた。

「小泉さんとは圭太が彼女を連れてくるちょっと前に関係を持ったんだ。その時は、小泉さんが圭太と付き合っているっていうようなことも知らなかったんだけどね。突然、圭太が連れて来たからびっくりしたってわけさ。」

まるで、誰か他人の話をしているようなそっけない口調だった。

美智子は佐藤をまっすぐ見つめた。美智子は、叫ぶ事も取り乱す事もなく、ただ静かに泣いていただけだった。
大粒の涙でぬれた彼女の顔はそれでも美しかった。

「のりさん、小泉さんが好きなの? 彼女を愛しているの?」

美智子の言葉に、佐藤ははっと我に返る。

愛している? 愛しているか、だって?
オレは、彼女を愛しているのか? 

「どうなんだろう。ただ、彼女を圭太に取られる、って思ったら…」

……それとも誰にも渡したくないという、独占欲だけか?
独占欲だけで、美智子を裏切ったのか? 家庭を壊したのか?

「どうして? 私だってのりさんがずっと好きだったのに。小泉さんなんかよりずっとずっと前から好きだったのに。」

「うん。知ってる。君が僕のことをずっと想ってくれてるのは知ってる。」

それだけ言うと、佐藤は黙った。

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