手に入れる女
「いいよォ。だって若くてきれーなおねーちゃんが隣りでお酒をついでくれるんだぜ。肌なんかこうモチモチしててさ。ま、悪いことは言わないから、オマエもいっぺん、通ってみーよ」
世の奥様方が聞いたら、かあっと怒り出すに違いない。
嫁が必死で子どもの面倒を見て節約に励んでいるその横で、亭主がヨソで大枚はたいてモチモチ肌にすりすりされたらたまったものではない。なのに、それを友だちにも絶賛して勧めるのであるから。
山本は鼻の下を伸ばして佐藤を説いている。
「アレだよ、ちらっと谷間が見えたりしてさ、たまんねーよ。触らしてくれることもあるし、チューしたりしてな」
佐藤がギョッとした顔で山本に聞いた。
「何、オマエそんなとこにも出入りしてんの? ……ったく、カミさんが怒るのも無理ねえなぁ。オレはむしろカミさんに同情する」
佐藤は返って興ざめしたようだが、山本は嬉しそうに続けた。
「場所によっちゃあ、ってことだよ。この前行ったとこはすごくてさー。キャバ嬢たちが馬乗りしてくれんの。
あんなところ、取引先と接待で行ったりした日にゃあ、なんでも言うこと聞くようになっちゃうんじゃねーの?」
「そんなところ、入り浸ってんの?」
「いや、オレが行きつけのところは違うよ。
実は、この前久々に行ったらさー、オレの腕組んで、『あら、ユウちゃん待ってたよ』なんて言ってくれるんだぜ。まいるよなぁー」
山本のキャバクラ談義は止まらない。佐藤は苦笑しながら言った。
「それさ、いっぺんカミさんとやってみたら?」
「? 一緒に行けってこと?」
山本は訝しそうな顔をして佐藤を見返した。
佐藤はゆっくりと説明する。
「違う、違う。だからさ、キャバクラごっこだよ。カミさんにさ、キャバクラ嬢のドレスを着させてさー、ラブホかなんか行ってさ、即席でバーを作ってキャバクラごっこするんだよ。チップはずんでやれよ〜」
頭の中でその様子を想像してみたのだろう、しばらくぽかーんとして、山本はそれから笑い出した。
「女房となんかで気分出るかよ。第一あの顔じゃ…」
佐藤は山本を遮った。