手に入れる女
佐藤は、コーヒーを片手に職場に戻った。
「部長は本当にコーヒーが好きですねぇ。一緒にいかがですか?」
安藤が、佐藤のところにカステラを一切れ持ってやってきた。
職場の誰かのお土産なのだろう。カステラをつまみながらとりとめのない世間話をする。
金曜日の午後、週末ということもあってか、オフィスにはのんびりしたような気楽な雰囲気が漂っていた。
軽く談笑していたところに、美智子から電話がかかってきた。銀座で買い物をしていたら遅くなったらしい。せっかくだから一緒に食事をして帰らないかというお誘いの電話であった。
七時にいつものコーヒーショップで待ち合わせをした。安藤は会話を耳に入れていたのだろうか、佐藤をからかってきた。
「部長、奥様とデートですか? 羨ましいなあー」
「お互い外で食べるのが好きだからさ、家内が出て来た時は、一緒に美味しいものでも、ってのが習慣になっててね」
安藤は心底羨ましそうな声を出した。
「いいですね~、アタシも部長みたいな人と結婚したい。結婚してからもずっとデートする、っていうのは女の理想ですよ」
「安藤君だったら、素敵な人がすぐ見つかるだろう?」
「現実はなかなかキビシイです」
安藤は軽くため息をついて佐藤から書類の束を受け取った。
「じゃあ、この入力はやっておきますから。集計出しておきますね」
「安藤君、いつもありがとう」
席に戻ると沢田が安藤をからかう。
「部長にばっかり親切にしてないで、オレにも差し入れしてよ」
「見てたんですか、沢田課長」
安藤は顔を赤らめた。