手に入れる女
優香は、オフィスに戻ってから、数時間仕事に集中したが、また一息入れたくなってコーヒーショップに戻って来た。
金曜日の、ぼちぼち仕事が終わろうとするこの時間、オフィス街のカフェは込み出すところが多いが、ここも例外ではない。特に、週末は一息つく人もいつもより多いようだった。
それなのに、優香の三人ほど前にいる女がやたらと注文に時間がかかっている。
優香はコーヒーショップで順番を待ちながらイライラしていた。
彼女が何のコーヒーにするか、店の人に一々聞いて考え込んでいる間にも列はどんどん長くなっていた。
後方にならんでいるサラリーマンのおじさんたちも明らかにイライラしている。彼女が質問するたびに、チッとか、咳払いの声などが優香の耳にも届いていたが、彼女には聞こえないらしく、のん気にカフェモカとカラメルマキアージュの違いを事細かに店員に聞いていた。
空気が全く読めていないこの女はどんなヤツなんだろう、と抑えきれない好奇心から、優香は横を通る時に彼女をじっくり眺めまわした。
その彼女はえらく品のよいご婦人で、デパートの紙袋を下げてゆったりと歩いている。立ち居振る舞いはどう見ても勤め人のそれではない。
働いている人ならもっとキビキビ動くはずだ。楽しそうに店の人と会話している様子からして、街に出て来てはしゃいでいる主婦であろうな、と優香は想像した。
主婦はのん気でいいわ、なんて白々しい気持ちで思いながら、優香はようやく自分のコーヒーを受け取って適当な席についた。