手に入れる女
「スミマセン、自己紹介するのをすっかり忘れてしまいました。ちょっと慌てていましたね。私、小泉優香と申します」

優香が名刺を差し出して来たので、佐藤も慌てて自分の名刺を差し出した。名刺によれば、彼女はすぐ近くの法律事務所に勤めている弁護士らしかった。

優香は、佐藤の名刺を受け取ると、じっくり眺めた。

「佐藤典之さんですね。イシバシ電機産業の部長さんか。あら、佐藤さんの職場もこの近くなんですね」

なるほど、言われてみれば、佐藤には大企業の部長らしい落ち着いた風情が漂っていた。年は５０をいくつか超えたぐらいだろうか、年の割にはスマートでユーモラスな雰囲気がなかなか悪くなかった。

「一番近いコーヒーショップがここなのでよく買いに来るんですよ」

そんなことを言うと、優香もパッと顔を輝かせた。

「私も。コーヒーが大好きなのでしょっちゅう。特に、ここの席に座ってぼーっと通りを眺めながら飲むのが好きなんです」
「自分の席を決めてるんだ」

佐藤がコーヒーをすすりながら相づちをうつと、優香は一層楽しそうに話を続けた。


< 3 / 216 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop