手に入れる女
そんな優香の気持ちなどお構いなしで、二人は楽しそうに話をしている。
和やかに笑いながら、美智子は「それじゃあ、お先に失礼しますね」と優雅にサラッと挨拶して出て行った。美智子に促されて、佐藤も「それでは、小泉さんもよい週末を」と声をかける。
佐藤は美智子の買い物袋を受け取り、美智子の肩を軽く抱いて先を歩くように促した。落ち着いた中年夫婦の親しさがにじみ出ていた。
せっかく佐藤に会えたところだったのに、あんなトロそうな女にさっと持っていかれて、優香は猛烈に悔しくなった。
じっと二人が出て行くのを睨んでいれば、イヤでも二人の会話が耳に入ってくる。
「のりさん、何食べる?」
美智子が佐藤に聞いているらしい。
「うーん、とんかつは?」
「太るからダメ。やっぱりお刺身とか焼き魚にしない?」
「ハイハイ、じゃ、それにしよう。 あ、この前行ったところに行ってみようか」
「どんな店?」
二人の楽しそうな会話はずっと続きそうであった。
その姿は、付き合い始めたカップルのような朗らかさがあり、優香の心はざわざわと波立っていった。