手に入れる女
「女子高生じゃないんだし、いいじゃないの、たまには男に抱かれて慰めてもらったって」
しゃあしゃあと言う圭太に優香は少し呆れた。
「そういうこと、言う? しかも、夕べのこと、全然憶えてないし。はあぁ……」
優香はため息をついた。
「全然憶えてないの!?」
圭太ががっかりしたように聞き返す。
「うーん、あんまり」
「それ、オレの方がショックだなー。優香さん、すごく可愛かったんだよ。不機嫌な優香さんも、泣いてる優香さんも可愛かったよー。ベッドの中でもすごく可愛かった」
優香は顔を赤らめた。
それにしても、30も過ぎてやけになって見知らぬ若い男をベッドに連れ込み(連れ込まれた?)、あろうことか記憶をなくすとは何てことであろう。
優香は言葉が続かなかった。
圭太は優香の顔を見て、顔にかかった髪の毛をゆっくりかきあげると、彼女のおでこにそっとキスをした。
「コーヒー入れるから気を取り直してよ」
圭太は軽々とベッドから起き上がって、はでなトランクスをはくとキッチンに向っていった。
ターコイズ色にちりばめられたホットドッグ柄が何となく「らしい」。ほとんど見ず知らずのひとなのに、そんなことを思いながら、キッチンに消える圭太の後ろ姿をぼんやりと見つめていた。
ベッドには朝の柔らかい光がさしこんでいる。キッチンからゴトゴト音がするのを遠くに聞きながら優香は目をつむった。