手に入れる女
優香は、佐藤が店から出て行くのを見送ると、無事に手元に返って来たケータイに安堵しながら足早に職場に戻った。
ただでさえクソ忙しいのにケータイ紛失なんてことになったら冗談じゃない。だから、佐藤がケータイを拾ってくれたのは本当に有り難いことであった。
それにしても、本橋の仕事は全く隙だらけだ。
オフィスに戻って契約のドラフトに目を通しながら、優香は込み上げてくるイライラを抑えようと必死だ。
直さなきゃいけない箇所が多すぎる。どんどん付箋をつけながら、隣りのオフィスにいる部下を呼びつけた。
「本橋君、この契約、文言を変えた方がいいって話になったの覚えてない?」
怒りを抑えたつもりだったが、優香の声は尖っている。
本橋の返事は、いかにもふて腐れた、面白くなさそうな声だった。口をもごもごと動かすだけで、こもったような言い方は優香のイライラを増長させた。
「あー、確かにそんな話になりましたっけ」
こんな生返事を聞かされて、穏やかににこやかに話を続ける程、優香は人間が出来ているわけではない。わざと優香の神経を逆なでしているのか、本橋はいっつもこんな調子なので、優香はだんだん腹が立ってくるのであった。
今だって、ケータイが戻って来て、これで仕事に集中できると前向きな気持ちでいたのに、本橋のこの態度にテンションがだだ下がりな優香である。怒鳴り散らしたいのをこらえるのが精一杯だ。