手に入れる女
その夜、必死で仕事を終わらせた優香は、家でチーズケーキ作りに没頭していた。
とびきり美味しいのを作って、佐藤と一緒に食べたらどんなに楽しいだろう。
考えるだけで胸が高鳴る。神経を尖らして粉をはかっているとケータイが鳴った。
圭太からだ。
作業を中断させられて、電話に出た優香の声は心なしかとげとげしかった。
「優香さん、なにやってた?」
「別に何も。圭太は?」
優香は早くチーズケーキ作りに戻りたくて言葉短く答える。
「優香さんのこと考えてた」
「相変わらず調子いいよね」
「ホントなんだからそんな風に言うなよー。優香さんのこと考えてたら、声聞きたくなって電話した。今からそっち行っていい?」
優香は間髪入れずに大声を出した。
「だめ!」
圭太は、訝しげにゆっくりと聞き返す。
「なんで?」
どきりとして、少し声がどもる。
本当のことは言えなかった。
「あ、うん、仕事してるし、明日も早いし」
「別に仕事の邪魔なんかしないよ。優香さんの顔がみたいだけだし、すぐに帰るよ?」
「でもダメ。とにかく今日はダメ。じゃね、電話きるよ」
無理矢理電話を切ってチーズケーキ作りを再会する。
電話の向こうで圭太が憮然として顔をしているのが、優香には手に取るようにわかった。