手に入れる女

同じ日の夕方、佐藤はフワフワと落ち着かない時間を過ごしていた。
何をしていても、さっきの優香の顔がちらちらと頭に浮かんできて離れない。

仕事が忙しくないのがこれ幸いとばかりに、山本を飲みに誘った。
ビールで乾杯して早速優香とのやり取りをかいつまんで話す。

「その女、ぜってーオマエに惚れてるよなあ」

それが山本の見立てだった。

「そうか? やっぱり雄介もそう思うか?」

佐藤はため息まじりで山本に確認をした。

「だろう? じゃなきゃ『列がもっと長かったらよかったのに』なんか言うかよ」

やはり第三者から見ても、優香は佐藤に気があるらしいのだ。

佐藤のこれまでの人生、女に言いよられたことは何回となくあったのだが、佐藤が気になるのはこれが初めてだった。
まるで自分に言い聞かせるかのように、山本に呟いた。

「まあでも、別にこれ以上、どうこうって感じでもないけどな、とりあえず。週に何回か偶然会うだけだし。それもコーヒーショップ。色気もへったくれもあったもんじゃないし、健全なことこの上ないしな」

「そんなの本当に偶然かなんてわかんねーじゃんよ、そもそも。
それにしてもアレだよな、そのコ、オマエのカミさんとも会ってんだろ? 女房いるってわかってて言いよるってのも結構大胆だよなー、今時の不倫事情ってこんな感じなのかねェ。」

毎度のことながら山本は容赦がない。遠慮なく解き放たれる言葉に、佐藤はちょっとたじろぐ。
 
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