手に入れる女

悶々とする日が何日か続いて。
佐藤は、モヤモヤを吐き出したくて、例によって山本を呼び出した。
山本の顔をみるやいなや、優香のことを話し始めた。
もはや、山本の様子を確かめる、とか、さりげなく優香のことを話題にするとか、そんな余裕は佐藤にはなかった。

「いや、手作りのチーズケーキってどうなんだろう?」
「そりゃあ、アレだろ。バレンタインのチョコレートのようなもんじゃないのか」

バレンタインのチョコレートか。
義理チョコ? 本命? ……聞くまでもないことだった。

「やっぱり、そういうニュアンスあるよなあ。しかし、バレンタインのチョコもいろいろあるからなー、微妙にこっちの出方を試したんだろうか?」
「いやいや、試すもなにも、下心満載の本命ケーキでしょうが、この場合」

山本はバッサリと言い捨てる。
同じように感じていた佐藤は、返す言葉もなかった。

「やっぱもらわなくて正解だったんだろうなー」

いかにも残念そうな佐藤の呟きだった。

「もらわなかったんだ」
「忙しいって言って、会わないで逃げた」

グラスを手にもってくいっと酒をあおる友だちをチロリと見て、山本はおどけてみせた。

「もったいねー、とか思ってるんじゃねーの?」

山本の言葉に佐藤はドキッとする。
どうして、コイツはいちいち鋭いんだ?
山本の言葉を否定したくて佐藤は必死に反論した。

「だって、深みにはまったらどうすんだよ」
「出た〜、オマエの保身。何、それ、その優等生な発言。いっつも『オレは女遊びなんていたしません』みたいなスカした態度。
 それはそれで、なんかむかつくよな。明るく楽しくカミさんといちゃついてますよ、ってか?」

ぶつぶつ文句を言う山本に、佐藤もすかさずジョブを入れる。

「何言ってんだよ。オマエんとこなんか、キャバクラでカミさん出て行っちゃったんだろ? そういうゴタゴタは……イヤなんだよ、オレは。」

美智子に何の不満のあるわけでもないのに、わざわざゴタゴタを起こして面倒を引き起こす必要性を感じないのだった。
どんなに優香に惹かれていたとしても、それと引き換えに起きるであろうトラブルを考えると、それに対処するのはとても面倒だ。

どんなに優香に惹かれても?

頭の中で考えているうちに出て来た言葉に、佐藤はぎょっとした。

優香に惹かれても?
優香に惹かれてる?
惹かれてるのか?
 
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