手に入れる女
山本は、佐藤の言葉を聞いて急に情けない声をだした。
「そうなんだよォー。アイツ、怒っちゃってさぁ、全然ウチに帰って来ないんだよォ。
オマエ、アイツを連れ戻してくれないか? かれこれ一ヶ月近くいないんだよ。オレ、もう限界」
なんだかんだ言っても、山本は出て行った妻が恋しいに違いなかった。
それなのに、一向にキャバクラ遊びを止めない懲りない山本に、佐藤はちくりと嫌味を言いたくなってきた。
「なんで? それこそキャバクラ通い放題じゃないか」
「いや、そうなんだけどさ、やっぱウチ帰って誰もいないとキツいよ」
「じゃ、キャバ嬢連れ込めば?」
「はぁ?! 連れ込んで、万一女房がウチにいたりしたらどうなるんだよ?」
「離婚。離婚すれば万事解決だよ」
佐藤は、何を当たり前のことを聞いてんだ、というような調子で涼しい顔を装っていた。
……全く、この二人は何年経っても懲りない。
山本が、何あるたびキャバ嬢に入れ込んで、妻の機嫌を損ねているのも昔からだし、カミさんが怒って家を出て行って離婚だ!!と騒ぎ立てるのも毎度のことだ。それでも何となくずるずるとウチに戻って元サヤに納まっている。
夫婦なんてそんなものかもしれないが、
甘えすぎなんじゃないか、と山本に一言言ってやりたいような気もする。
が、しかし、今の佐藤には、自分のことでいっぱいいっぱいで、山本のことに首を突っ込む余裕など全くなかったのだが。
「離婚、離婚て簡単に言うけどなー」
「だって、ウチ帰って、ごちゃごちゃ文句言われるより、離婚してスッキリ、あわよくば女を連れ込む方がずっといいんじゃないか?」
理路整然とした佐藤のいい分にはぐうの音も出ないが、山本にしてみればそんなに簡単に割り切れるものではない。
何と言うか、女房に対する情だってあるわけだし。
「何、オマエ、オレが離婚したらいいと思ってんの?」
「そうじゃないよ。そうじゃないけど、思いっきり女と遊びたいなら、離婚が正解なんじゃないのか、って言いたいだけ。
オマエんとこ子供もいないし、別に足かせはないだろう?」
佐藤は一息に言うと、クイクイと酒を飲み干した。