手に入れる女
覚悟を決めると結構平然と会話が出来るもんだと、優香は自分で自分に感心していた。
「うーん。別にフツーだよ? でもやっぱお嬢さんかなー、おっとりしてるとは思う。
お袋の実家は裕福だしさー、なんか天然で世間知らずなところがあるよ」
「急にうまくやる自信なくなった。あたし、おおざっぱでガサツだからムリかも」
露悪的な言い方になる。
あの、空気の読めない、とろそうな女。佐藤の隣りで無邪気に幸福そうな顔をして笑っていた女。
それが、佐藤の妻で、圭太の母親。
優香は頭がクラクラしてきた。
「あー、そう言われたらそうかも。何、オレ、嫁姑戦争の間でオロオロしちゃうわけ?」
「面白がってるでしょ?」
そんな場面を想像したのだろう、そういうのも悪くないな、という顔をした圭太に、優香は可愛らしくふくれてみせた。
バレないように必死で取り繕う。
女はみな名女優というのはホントだわ、と心の中で思いながら。
「そんなことないよ。大丈夫だよ。親父はお袋の操縦がうまいし、オレも優香さんの味方になるしさ。…って、何で会う前からこんな話になってんだ?!」
圭太は無邪気な顔で話を続けた。
「お父さんとお母さん、仲いいんだ」
優香はさりげなく探りを入れる。
圭太は幾分誇らしげに答えた。
「うん。仲いい。しょっちゅう二人で出かけてる。親父がお袋を可愛がってんだよなー。
息子のオレが言うのもアレだけど、結構微笑ましいよ」
聞かなければ良かった。
「ふ—ん、そうなんだ」
優香は面白くなさそうに答えた。