手に入れる女
「そう。でも、この前は『自分席』に座ったのに、ケータイ落としちゃったし、今日は『自分席』じゃないのに佐藤さんとご一緒できたり、よく考えるとあまり関係ないかもしれませんね」
「私は小泉さんの幸運に貢献しているんでしょうかね?」
茶目っ気たっぷりに聞いてくる佐藤に優香も自然と頬が緩む。
「もちろんですよ! 何と言っても佐藤さんのお陰でケータイが見つかったんですから、私のラッキーパーソンです」
「そう言ってもらえると光栄です」
穏やかに答える佐藤に、優香は思わずため息をついた。
「私の上司も佐藤さんの様だったらいいんですけど……。実は、今朝も仕事のことでやり合っていてイライラしてたんです」
「そんなこと言っていいんですか。私だって仕事となると鬼より怖いんですよ、これでも。泣かせた部下は数知れず」
佐藤が大げさに真面目ぶって答えるので、優香は思わず吹き出した。
大口を開けて体中で笑っている。人目を気にせず楽しそうに笑う優香に佐藤は好感を持った。
「楽しい時間は過ぎるのが早いですね。そろそろ職場に戻らないと、仕事をさぼってるのが部下にバレてしまう」
佐藤はコーヒーを飲み干してすっと席をたった。
「それじゃ」
軽く手を挙げてドアの外に消えた佐藤を、優香は、席に座ったまま見送っていた。