手に入れる女
もう一軒飲みに行こうよ、という圭太を何とか振り払っての帰り道、優香は釈然としない思いで早足で家に向って歩いていた。
写真を見た瞬間から考えるのは佐藤のことばかりで、それ以上何でもない顔で圭太と話を続けるのは限界だった。
佐藤のことを紛らわすつもりで、圭太と出かけたのに……。
佐藤に会いたい……。
物音一つしない部屋にたどり着いたら、物悲しさが一層せまってくる。優香は佐藤が恋しかった。
もしも、佐藤に会えたなら、きっといつものように穏やかな顔で、優香の話に耳を傾けてくれるだろう。
ゆったりとした物腰で、楽しそうに相づちをうってくれるに違いない。
優香は、そんな風に佐藤と過ごす穏やかな何でもないひと時に癒されていた。敵意むき出しの上司や、ソリの合わない本橋と対峙しなければならない毎日にあって、心安らぐ時間であった。
しかし、それ以後もコーヒーショップで佐藤を見かける事はないまま、しばらく時が経った。
佐藤がコーヒーショップに来ていないらしいとわかってからも、優香は来るのをやめられなかった。
佐藤に会える、という保証がどこにもないままあてどなくコーヒーショップに通う毎日は、もしかしたらというかすかな期待とやっぱりという落胆の繰り返しで、優香はひどく消耗した。