紅蓮の姫君
第1章 揺れる大地
< I. 魔界の者たち >
すっかり雲に覆われた真夏の空は、今にも雨が降り出しそうな様子だった。
3つの国からできているイファリク大陸。その南部に位置するのは、炎を司る赤の国 ヴァルカン。
首都カリエンテに建つ王宮の中は夜なのにも関わらず、いつもより賑わっていた。
18を迎えた王国の姫を祝うため、大広間には人がたくさん集まり、舞踏会が行われていた。
「アリア」
大広間のテラスにて、物憂げに外を見つめる舞踏会の主役に、男は声をかけた。
アリアは男の声に気がつき慌てて振り返る。
”慌てている姿さえ美しい” その様子を見ていた数名の人々はそう思ったはずだ。
少しウェーブした黒くて長い髪、真っ白な肌、丸くて大きいルビーのような瞳は濃くて長い睫毛に縁取られていた。
「お父様…!」
上半身の部分が肌にピッタリと張り付いた真紅のドレスが揺れる。
目の前に立つ自分の父親、ヴァルカン王 アスランの存在感には数十年たった今でも慣れないものだった。