紅蓮の姫君
< II. 旅の始まり >
「アラン様、こんな所に居たのですか。」
とある宿の屋根の上、寝転がり空を見つめている青年の横で男は膝をついた。
雲ひとつない晴天。
空には一面に深い青が広がり無数の光が散らばって輝いていた。
「エド、今日の星はいつもより騒がしいな。」
「………はぁ、そう、なのですか?」
エドと呼ばれた男は、アランの言葉に空を見上げるが、大それた力を持つ目の前の彼と打って変わって戦闘で使える程度の魔法しか使えないエドには、少なくともいつも通りの星達のように見えた。
自然を司るこの国、アルディナは沢山の緑や花達に囲まれて出来ている。
そのおかげなのか、他の国と比べ此処の星は一段と綺麗に見えるらしい。
アランは空と同じ色の瞳を細めた。
「あれは何だ。」
アランが眉間に皺を寄せたのを確認して、エドは再び空を見上げる。少し離れた森の上空から何か赤いものが落下しているのを、エメラルドの瞳は捉えた。
栗色の髪が不安げに揺れる。
「隕石…?いや、その割には…………まさか人間?」
吐き出される自分の言葉に、なんの根拠もも持つことができない。
ゆっくりと落下していく”何か”をエドはただ見つめるしかなかった。
「でも、炎に、包まれてる。その割には…落ちるスピードは、やけに……。」
「遅いな。」
戸惑い、言葉の途切れるエドの台詞をアランが完結させる。好奇心に輝く瞳はまるで急いでいるかのようだった。