ピーク・エンド・ラバーズ
Cheek Dyed Beginners
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かんぱーい、と若干やる気のない掛け声に合わせて互いのグラスをぶつける。ファミレスの安っぽいグラスでは、軽い音しか鳴らなかった。
「いや~、長かった。ようやく報われたわぁ」
向かいに座るクラスメートがため息交じりに嘆き、椅子にもたれかかる。
私はそんな彼を横目に、つい先程ドリンクバーで注いできた白ぶどうスカッシュを口に含んだ。
「報われたって、それ津山くんのセリフじゃなくない?」
ついでに言うと、私のセリフでもないはずだ。
しかし当の本人は臆することもなく、「まあまあ」と宥めるように苦笑する。
「俺も色々頑張ったのよ。暗躍者? っていうの?」
「それだとマイナスの活躍しかしてなさそうだけど」
「はは、確かに。間違えたわ」
間違えた、という割に訂正する気はないようで、彼はそのまま頬杖をついた。ただ面倒なだけなのか、適切な言葉が見つからなかったのか、どちらかは分からない。
ドリンクバーしか注文していない私たちは、店からしたらあまり歓迎されない客だろう。
テーブルの上には彼と私のグラスが二つ。それから、学校側から支給されたうちわ。うちの高校の伝統で、毎年文化祭のときに全校生徒に配布されるのだ。
「津山くんのうちわ、メッセージびっしりだね」
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