ピーク・エンド・ラバーズ
冗談を交えながら、二人が会話を進める。
芽依が「加夏はさー」と急に矛先を向けてきたので、顔を上げた。
「今まで彼氏いたこと、ないっしょ」
「は、」
「いや、すれてなくて、私は加夏のそーゆーとこ好きだけどね。普通彼氏と二人っきりとか喜ぶもんじゃん? いつも津山氏が来たら私の後ろに隠れるの、超うける。超可愛い。中学生かって」
なんだこれは。拷問か。貶されているのか褒められているのか、いまいち判断がつかない。
羞恥で顔が火照る。だんまりを決め込んで、俯いた。
「津山氏もそう思うっしょ?」
やめて、芽依、ほんとに。そっちには振らなくていいから。
いっそ耳まで塞いでしまいたいくらいだ。せめて目を瞑って耐えていたら、津山くんが静かに述べた。
「うん。めちゃくちゃ可愛いよ」
「うっわ、惚気た。なんか悔しいんですけど」
「何でだよ」
てなわけでー、と芽依が声色を変える。気まずい話題が終わりそうで、ほっと胸を撫で下ろした時。
「加夏のこと大事にしないと、まじで殴り込みに行くからね」
アーユーアンダスタンド? ミスター津山?
最後にバランスを取るかのようにおちゃらけて、彼女は釘を刺した。
「アイアンダスタンド。いぇあ」
「いぇあ、じゃねえよミルクティーボーイ」
「ダサすぎるあだ名やめて」
そんな不毛なやり取りは、次の講義が始まる前まで続いた。