ピーク・エンド・ラバーズ



「加夏、ほら。隠れない隠れない」


芽依が私の腕を掴んで、促してくる。
前方からはひらひらと手を振りながら、津山くんが近付いてくるところだった。


「しっかし、毎回健気だねー。津山氏って、意外と尽くしてくれるタイプ?」

「わ、分かんない」

「いや、一番知ってるの加夏っしょ」


今日は四コマ目で講義が終わって、津山くんと一緒に帰る日だった。
彼とは学部が違うから、構内ですれ違うことはあんまりない。こうして帰りが一緒になる時か、サークルの時くらいにしか現状会っていなかった。

じゃあね、と一足先に歩き出した芽依が離れていく。咄嗟に伸ばした手は、彼女を引き止めたかったのか、何なのか。
津山くんは私の目の前で立ち止まると、複雑そうに眉尻を下げた。


「……俺と帰るの、嫌だった?」

「あ、いや……別に、そういうわけじゃなくて」


自分でも言語化が難しい。
恥ずかしい、というのはもちろん大前提にあって、きっと私は結構周囲の目を気にしているのだと思う。自分の中にいるやけに達観したもう一人の自分が、揶揄ってくるような感覚なのだ。

街で腕を組んで歩いているカップルを見かけただけで、こっちが恥ずかしくなってしまう。いちゃいちゃも戯れも、よく分からないし苦手だ。


「何でもない。……帰ろ」

< 105 / 275 >

この作品をシェア

pagetop