ピーク・エンド・ラバーズ
いつかのように、彼の手がちょん、と私の指先に触れた。
思わず顔を上げれば、やっぱり変わらない。私の機嫌を常に窺って、遠慮がちに媚びてくる彼。
至近距離でその表情を見てしまい、少しだけ胸の奥が苦しかった。
「だ、だめ」
「えー……」
「人に見られるところは嫌って、言ったじゃん」
特に学校の近くなんだから、知り合いに見られる可能性が高い。揶揄われるのも面倒だし、とにもかくにも恥ずかしいし、絶対に嫌だ。
「そうだけど……でも、じゃあいつになったら繋いでくれるの」
ほんの少しだけ、詰るような声色。どちらかというと、拗ねている。
「いつとか知らない。とにかく、見られるの嫌だから」
「分かった……」
しゅん、と項垂れた姿に、危うく声が出そうになった。
毎回思うけれど、彼は計算してやっているんだろうか。眉尻を下げて、寂しそうなオーラを纏わせて。
勿論、私が断るからだというのは分かっている。それでも、絶妙に罪悪感を煽られる彼の表情は、何度見ても心臓に悪かった。
電車に乗って、私の家の最寄り駅で二人揃って降りる。
時折たわいもない会話が何度かぽつぽつとあって、五分とかからないうちに家に着いた。
「じゃあ……送ってくれて、ありがとう。バイト頑張って」