ピーク・エンド・ラバーズ
私と灯の顔を交互に窺いながら、羊がおずおずと尋ねてきた。彼女の真ん丸な瞳が、不安げに揺れている。
そんなことを聞かれても、生憎私だって今まで彼氏がいたことはない。
羊はいかにも純粋無垢で、狼谷くんが初めての彼氏だと言っていた。それは見た通りだから納得だけれど、私が同じことを言っても、そうはいかない気がする。経験がないと公表するのは、何となく気恥ずかしかった。
「え~……それは個人差あるから、何とも」
と、先陣を切ったのは灯だ。灯は中学生の時に、クラスの男の子と付き合ったことがあるらしい。
「別に羊がそこまで気にしなくてもいいんじゃない。狼谷くんに任せていいと思うよ」
少しだけ迷ったけれど、私はそう告げて上手く逃げた。具体的な数字なんて分からないし、経験者の灯だって断言していないのだから、実際個々人で違うのだろう。
しかし私たちが曖昧な回答を寄越してしまったせいか、羊はますます眉尻を下げて困り顔になってしまった。
私はこの顔に弱い。義務でもないし責任もないけれど、このままにしておいてはいけないと思ってしまう。
「羊はどうしたいの?」