ピーク・エンド・ラバーズ
前方のテーブルから甲高い女の子の声が飛んでくる。
ああ、また誰か潰れたんだな。何の気なしに視線をそちらに向けた。
「でも津山くん、全然飲んでないよね? これ一杯目でしょ?」
今度は少し落ち着いたトーンだった。聞こえた名前に、思わず耳を研ぎ澄ませる。
私とは違うテーブルに腰を下ろしている彼の顔は、確かに真っ赤だった。誰がどう見ても完全に酔っている。
その両隣はいずれも女の子で、右の子も恐らくお酒が入っているんだろう。紅潮した頬をそのままに、しきりに津山くんに話しかけていた。
「津山くんお酒弱いんだぁ~可愛い~」
「ちょっと、あんた近いって。なんかやらしーからやめな」
「何それー!」
きゃはは、と笑い声が上がる。
自分の眉間に皺が寄ったのが分かった。
当の本人はといえば、アルコールのせいでまともに会話もできないのか、話しかけられるたびにこくりと頷くだけだ。眠そうともとれるし、気怠そうともとれる。
しばらくは大声で話していた彼女たちも、彼の反応が鈍くなると、次第に声のボリュームが落ちていった。それと同時に、こちらまで会話の内容が聞こえなくなって、ほんの少しだけほっとする。
ちゃんと帰れるのかな、あの人。送る気もないくせに、脳内でそんなことを考えた時だった。
「……え、」