ピーク・エンド・ラバーズ
うつらうつらと船を漕ぎ始めた彼の肩に、女の子が右手を掛ける。もう片方の手は良く見えなかったけれど、そのテーブルの下では彼の太腿に置かれているんだろうな、と推測できた。
彼は触れられた拍子に、僅かに顔を上げる。そしてぼんやりと隣の女の子を見つめ、振り払うでもなく、ただ首を傾げるだけだった。
……いや、ちょっと、待って。
「西本さん、だし巻き卵食べた? これ残ってるの食っちゃっていいよ」
ケースケくんが呑気に促してくる。
正直今はだし巻き卵とかどうでも良くて、目の前の光景から視線を逸らせない。
「……ケースケ、マジで空気読めよ」
「は? なに?」
「もういーから、それはお前が食え!」
芽依が声を荒らげた拍子に、我に返った。
焦点がようやくケースケくんに合う。彼は訝しげに首を捻って、私と芽依を交互に見やるだけだった。
「あ……ごめん。ちょっと、ぼーっとしてた」
「卵いる?」
「ううん、大丈夫」
今一度断りを入れると、ケースケくんは最後の一切れを頬張る。
「加夏」
ふと隣から呼ばれて、芽依が憂いの帯びた瞳を差し向けてきた。
彼女は感情の幅が大きいから、私の代わりに突拍子のないことを言い出しかねない。そういう時は、私が平常心を保つことが大事だ。
「どうしたの? 芽依も酔った?」