ピーク・エンド・ラバーズ


二人に詫びて部屋を出てから、通話を受けた。


「もしもし、」

「加夏ちゃん! 良かった、出た……」


居酒屋から出る前、最後に聞いた声よりかは、幾分はっきりとしている。
はあ、と安堵したように息の吐く音が向こうから聞こえて、津山くんは矢継ぎ早に質問を重ねてきた。


「何で先に帰っちゃったの? いまもう家? 一人?」

「いや……芽依たちといるよ。まだ帰らない」

「えっ、どこ? どこにいるの?」

「別にどこだっていいでしょ。もう切るからね」


案の定、疑問符だらけで一方的な会話だ。
全部の質問にいちいち答えてやるほど、私も心は広くない。彼が待ったをかけるように私の名前を呼んだけれど、「今日はもう連絡してこないで」と切り捨て、そのまま通話を終わらせた。

部屋に戻ると二人とも歌っていなかったようで、私の顔を見るなり「どうだった?」と聞いてくる。


「うん、大丈夫。もう今日は連絡しないでって言ったし」

「うわ、ばっさり。加夏、けっこー普通に怒ってたんだ」

「いや怒ってはいないけど」


純粋にめんどくさいな、というだけであって、怒鳴る気力もなければ理由もない。
芽依は私の回答に少しだけ面食らったような様子で、首を傾げた。


「怒ってないの? 何で?」

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