ピーク・エンド・ラバーズ
ずっと何かから解放されたいと思っていたのかもしれなかった。
告げた後はどこかほっとしたような気持ちに襲われて、小さく息を吐く。
「え――なに、言って、……何? 何で急に、」
酷く動揺した彼の声が耳朶を打った。
急になんかじゃない。もうずっと、津山くんといる時はずっと、私は苦しかった。
「しばらく一人で考える時間が欲しい。だから、」
「しばらくって……考えるって何? 俺とじゃだめなの?」
静かに頷いて、目を伏せる。
しかし、それで大人しく引き下がる津山くんではない。
「何で……? 言ってよ。俺、馬鹿だから言ってくれないと分かんなくて、ほんとにごめんって思ってるけどさ……加夏ちゃんが嫌なこと、もう絶対しないから。だから、……ていうか普通に、距離置くとか、俺がやだ」
「うん。でも、私も距離置かないと、嫌なの」
支離滅裂になりかけている彼の主張を毅然と制する。
津山くんの傷ついた音が、聞こえた気がした。
「加夏ちゃん」
立ち尽くす彼の横を通り過ぎてから、空っぽな声が私を呼んだ。
「……別れるとかじゃ、ない、よね?」
振り向いたけれど、津山くんは私の方を見ていない。ただ呆然と前を向いたまま、まるでそこに私の幻影をみているかのように。
「ごめん」
それだけ言い残して、あとは駅までひたすら歩いた。
ごめん、なんて便利な言葉だろう。津山くんを詰ったけれど、きっと私だってこの「ごめん」の意味を、解剖できやしない。