ピーク・エンド・ラバーズ


珍しく――と言ったら怒られるかもしれないけれど、芽依がいつになく真面目な顔で諭してくる。
彼女の憂慮は人間関係全般に通ずることだろう。友達と喧嘩した時だって、さっさと解決してしまった方が上手くいく。

そんなこと、頭では分かっていた。
一人になりたい、考えたい、と言ったって、結局は逃げ出したようなものだ。あれ以上自分の情けない部分を認めてしまうのが嫌で、怖くなって目を背けただけだ。


「……昨日、ケースケくんに『岬が可哀想』って言われて、何か目が覚めたんだよね。私、結構最低だなって思って……」


全然好きになれていなかったんだな、と思った。不満は一人前に抱くくせに、私は津山くんの悪いところを受け入れる努力は全くしてこなかった。
何か嫌なことがある度に逃げて、でも彼自体を嫌いにはなれないから、また平然と隣を歩く。それの繰り返し。

自分のペースを乱されるのが怖かった。恋愛をして、自分が自分でなくなっていくのが嫌だった。
だって私は、本能の奴隷になりたくない。理性的に、健全な恋愛をしたいのだ。

でもそんな自分本位な考え方は、津山くんを傷つけるだけだった。
感情が大きく振れることのない、穏やかな恋。私が望んでいたそれは、彼を毎秒「好きじゃない」と突き放しているようなものだったのかもしれない。


『加夏ちゃん的には、同じ気持ちってどういう基準?』

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