ピーク・エンド・ラバーズ
津山くんはこの春から一人暮らしだ。行ったこともなければ見たこともないけれど、何となくの場所は知っている。
スマホが無意味になると、家に突撃訪問という原始的な方法に頼るしかなくなるらしい。ケースケくんは一週間分のレジュメやら資料やらを持って、津山くんを訪ねたそうだ。
「で、まあ結論から言うと会えなかったんだけど。インターホン越しでちょっと話したんだよね。岬、だいぶ弱ってたわ」
とりあえず部屋にあげろ、と冗談めかして言っても、津山くんはドアを開けなかったという。
それで、とケースケくんが眉尻を下げた。
「多分あの様子だと、ろくに飯も食ってないんじゃないかなーと思って。普通に具合悪そうだったんだよ。あいつ一人暮らしじゃん? ちょっとやばいなーと……」
まあ確かに、それはよろしくないと思う、非常に。
ケースケくんにそのつもりはないんだろうけれど、遠回しに私のせいだと言われているようで、返す言葉に詰まった。
「それでその、西本さんにお願いなんだけど……あいつに会ってくんないかな。割とがちで死にそうだから」
「……私が行っても、会えない可能性もあるわけでしょ?」
「それはない。てか、俺じゃ無理、会ってくれなかった。西本さんじゃないと、あいつ開けてくれないわ」