ピーク・エンド・ラバーズ
彼なら顔が広いから色んな人の部屋を行き来していそうだし、そのぶん羊を見かける確率も高そうだ。
たぶん狼谷くんのところに行ったとは思うんだけど。私がそうため息交じりに付け足せば、彼は「ああ」と声のトーンを上げる。
「ついさっきまで俺らの部屋にいたよ。出てくるとこ見た。入れ違ったんじゃない?」
「ほんと? そっか、ありがとう」
確かに、それならもう部屋に戻っているところかもしれない。
安堵して――安堵した途端、また新たな懸念事項が浮かび上がる。
キスだなんだ、と話した後に羊は狼谷くんと会ったのだから、ひょっとするとひょっとした? まあ、狼谷くんが上手くリードしてくれるだろうし……いやでも、私があんなことを言ったせいで影響を及ぼしていたらどうしよう。
「ねえ、津山くん」
「んー?」
いるじゃない、目の前に。百戦錬磨の経験豊富なスペシャリストが。
「……津山くんって、キスしたことある?」
その質問は、きっとおかしなくらい自然と零れ出た。
普段の自分なら、絶対にこんなことは口にしないだろう。でも私は至って真面目に聞いているのだ。
津山くんはよっぽど驚いたのか、目を真ん丸にして固まってしまった。それからすぐに自身の頭を掻き、歯切れ悪く頷く。
「え〜……まあ、うん。あるよ」
「それって、彼女?」