ピーク・エンド・ラバーズ
違う。傷ついたとしても、好きになるしかないのだ。だって片足は既に溺れている。
自己保身のために津山くんを傷つけて、それなのにまだ自分は傷つきたくないなんて言っている。そんなの、傲慢だ。
私はいい加減、この人に溺れにいっていいのだと思う。
少しだけ、抱きつく腕に力を込めた。津山くんが微笑んだ気配がする。
「もっと加夏ちゃんに好きになってもらえるように、頑張る」
「……が、頑張んなくていい」
「やだ。頑張る」
だから、やだって言わないで。可愛いから。
今でもこんなに緊張して恥ずかしいのに、この先どうなってしまうのだろう。不安が胸をついたけれど、これは随分と幸福な憂慮だな、と思った。
彼の首に回した腕を解くタイミングを逃してしまって、津山くんも私から手を離す気配はなくて、しばらくお互いの体温を分け合う。
いよいよ耐え切れなくて身じろぎした私に、彼はようやく「ごめん、重かったね」とゆっくり体を離した。
「津山くん、立てる?」
「うん。ちょっと捻っただけ」
「冷やさないと……」
立ち上がろうとした時、彼に手を掴まれる。そのままゆっくり指を絡めてきて、きゅ、と握られた。
「まだ、一緒にいたい」