ピーク・エンド・ラバーズ
普通、とか言われたところで、津山くんの普通と私の普通は違うんだから、意味はないと思う。
彼は数秒黙り込んでいたけれど、やがて「ふは」と突然吹き出したから、ちょっとだけびっくりした。
「西本さんってさー。しっかりしてるけど、ちょっと危機感足りないよね」
「馬鹿にしてる?」
「してないよ」
でもさ、と続けた津山くんが、なぜかこちらに数歩近付く。反射的に後ずさった私にお構いなく、彼はぐっと顔を寄せて、耳元で囁いた。
「男にそんなこと言ったら、ぱくっと食べられちゃうかもしれないよ?」
……正直に言わせてもらうと、めちゃくちゃ鳥肌が立った。
いや、津山くんはイケメンの部類に入るし、実際女の子に人気だし、百戦錬磨だし。でも本当に申し訳ないことに、全然タイプじゃない。
この距離で、この声で、この顔で。全くときめかない自分もどうかと思うけれど、それはどうしようもないのだ。
彼のことはそういう対象で見ていないからこそ普通に話せているのに、突然「遊び人」のモードでこられると、げんなりしてしまう。
「でも、津山くんはそんなことしないでしょ?」