ピーク・エンド・ラバーズ
背後から芽依の揶揄いが聞こえて、びくりと肩が震えた。
「津山氏、デレデレしすぎだっつの。鼻の下伸びてんぞ」
「うっせ。邪魔すんなよー」
つか伸びてねえし、と津山くんが軽く笑い飛ばす。いや伸びてたわ、と芽依も負けじと言い返した。
……もしかしなくても私、いま一瞬、芽依のこと忘れてた?
よそのカップルがいちゃついているのを見てげんなりするくせに、自分がいざその立場になると本当に周りが見えなくなってしまうものなのか。
さっそく恋愛脳になっている。駄目だ、もっとこう、自分のペースを崩さない程度に――
「加夏ちゃん、行こ。早く二人になりたい」
「えっ、……な、」
「手繋ぐね」
一応断りは入れてくれたものの、不意打ちであることには変わりない。
ああでも、もうちょっと手は繋ぎたいって言われたっけ。ぼんやりとそんなことを考えて、振り払うことはせず、彼の手を握り返した。
津山くんは一瞬驚いたように目を見開いて、それからすぐに頬を赤く染める。そんな反応をされると私の方が恥ずかしい。
「……な、なに」
ぶっきらぼうに問うと、彼が首を振った。
「ううん。……めっちゃ嬉しくて、死にそうなだけ」