ピーク・エンド・ラバーズ


耳に届いたのは想定よりずっと低い声で、それもそうか、と腑に落ちている自分もいる。――だって、あれからもう五年以上も経っているのだから。

週末の街は雨に濡れ、しっとりとした風が通り過ぎていく。
重たい沈黙が続いた。脱する術も分からないまま、ただ今は立ち尽くしている。


「久しぶり」


当たり障りのない再会の決まり文句を吐き、彼が目を伏せた。

久しぶり――そうか、やっぱりそうなんだ。
声はすっかり低くなって、身長もぐんと伸びて、顔つきだって随分と大人びた。人違いかもしれない。そう思ったけれど、そう思いたかったけれど、現実はなかなかうまくいかないようだ。


「初めまして。西本です」


震える喉をぐっと堪えて、背筋を伸ばす。私の言葉に、相手が息を呑んだ。


「私、平日の夜は結構シフト入ってるので、一緒になった時はまたよろしくお願いします」


早口で言い募り、頭を下げる。顔を見る余裕はなかった。
そのまま逃げるように階段を駆け下りた後、傘もささずに駅までひた走る。小雨でも、まともに受けてしまうと被害は甚大だった。

電車に乗り、スマホの画面を灯す。メッセージの履歴の一番上にある「津山 岬」を開こうとして、どこからともなく襲ってきた罪悪感に気力を削がれ、何も送らずアプリを閉じた。

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