ピーク・エンド・ラバーズ
眉間の皺が取れていない自覚はあった。せめて声色だけは通常運転を装いつつ、以前彼が言っていたことを思い出す。
――別に俺、誰彼構わずってわけじゃないからね。向こうから誘ってきた時しかしないよ。
夏になる前、だっただろうか。羊にちょっかいをかけているように見えたから、津山くんに警戒心丸出しだった時期のことだ。羊に変なことしないでよ、と注意をしたら、そう返ってきた。
「……え〜〜? 俺だって男の子だよ? 何するか分かんないよ〜?」
一瞬の間の後、津山くんが明るく取り繕った。
しないよ。私は念を押すように、そう断言する。
「だって津山くん、人が嫌がることはしないでしょ」
多分、彼の中での線引きは、そこにある。
もちろん、彼が私のことをそういう対象で見ていないから、しないよ、とはっきり言えたのは大前提にあるのだけれど、そうでなくとも、津山くんはしないと思う。
別に恋愛方面に限ったことではない。
津山くんは周りをよく見ている。常に輪の中心にいながら、自分が周囲に求められているものを察知するのが上手なのだ。空気を読む、気を遣う。そこに関しては、とても日本人らしい。
悔しいかな、津山岬とは、そういう憎むに憎みきれない人間だ。